英文契約書の基礎知識

英文契約書とは

国際ビジネスでは英語で作成された契約書、すなわち英文契約書が多くの場面で使用されます。英語を母国語としない国の企業との取引でも、英文契約書が用いられることが一般的です。
この点、英文契約書を正確に解読するためには、日常英語の知識では足りず、最低限の法律知識さらには英米法の知識が必要となってきます。英文契約書は当然ながら「契約書」であって法律文書であり、しかも、そこで使用される各法律用語の意味するところは、基本的に英米法に由来するものだからです。

また、現代の国際ビジネスでは電子メールでやりとりが行われるのが一般的です。この点、英文の電子メール一つを取っても、「契約社会」にある欧米企業との取引においては、会社の取引に関わる内容に関しては、相当程度の注意深さをもって臨むべきです。たとえ体裁は契約書になっていなくても、権利義務の発生や変更に関わる法律用語が見受けられた場合には、その処理を慎重に行わなくてはなりません。
それら文書には、自社にとって将来不利益となりうる法的リスクが潜んでいる可能性があるからです。

このように、日々の業務において電子メールを含む英文ビジネス文書を効率的に処理していくためには、一定の法律的センスに基づき、メリハリを付けた迅速なメールの仕分けが必要となってくることは避けて通れないことだと思われます。その意味で、英文契約書の基礎知識を押さえておくことは、国際ビジネスに伴う自社の法的リスクを未然に回避することに繋がるものと言えるのです。

英文契約書の種類と特徴

契約書の一般的役割

英文契約書に限らず、契約書の一般的な役割としては、次のように考えられます。
まず、当然ながら契約締結により、当事者間で法律的関係を形成することが挙げられます。例えば、当事者間で取引の開始、変更、中止等の権利義務関係を構築することです(法的意味付け)。
次に、契約書を作成することは、後日、契約内容をめぐって紛争が発生したときに役立ちます(契約関係の確認)。なぜなら口約束だけでは、当事者間の契約内容について、明確に確認することが困難であり、これは国際取引においては尚更だからです。

さらに、契約内容に疑義が生じたときに、これを確認することに役立ちますし、紛争の解決指針としても機能します。その意味で、将来の紛争予防にも資することになります(紛争予防)。

また、万一裁判等の法的手続きを取ることになった場合、基本的に証拠(書証)に基づいて事実が認定され、権利義務を実現できることになりますので、契約書をはじめとする当事者間の法律関係を確認する文書を作成しておくことは重要です(紛争解決)。


英文契約書の種類

英文契約書でよく見受けられる契約類型としては、国際売買契約、秘密保持契約、販売代理店契約、ライセンス契約、国際合弁契約、Letter of Intent(LOI:予備的合意書)、Memorandum of Understanding(MOU:覚書)等が挙げられます。


英文契約書の特徴

英文契約書の特徴としては、次のようなことが挙げられます。

まず、英文契約書においては、(ⅰ)日本の契約書に必ずといっていい程見られる「疑義が生じた場合には双方誠実に協議の上、円満に解決する」旨のいわゆる紳士条項がないことが多いといえます。大陸法を基礎とする日本法においては、契約書に書いていないことは成文法の定めに従い、法解釈によって妥当な結論を導けることが多いのに対し、コモンローを基礎とする英米法諸国においては、伝統的に判例法に従い紛争を解決し、成文法がないことも少なくないため、あらゆる状況を想定して全て契約書に盛り込んでおく必要があるのです。

そして、一般条項に規定される「口頭証拠排除法則」(Parol Evidence Rule)により、契約締結以前に口頭や書面で別の合意があったとしても、これを証拠として持ち出すことは許されないとされます。
この原則のため、契約書に記載されたことが最終かつ全てとなるので、予めもれがないよう網羅的に契約書に定めておく必要があるのです。
そのため、当事者間の権利義務関係を全てもれなく詳細に規定しておこうとするため、必然的に紳士条項は影をひそめるとともに、英文契約書は長大なものになることが多いのです。

そして、英文契約書では、(ⅱ)一般条項(General Provisions, General Terms, Miscellaneous)として、一般的かつ総則的な合意事項が多く取り決められます。これは、契約当事者の個性に着目するというよりは、多くの種類の英文契約書に共通するもので、契約条項の解釈や運用に関して、広くもれなく取り決めておくものです。
尚、この一般条項には、共通のパターンがあるため、一度押さえておくと各種英文契約書の読解がスムーズになります。

さらに、英文契約書では、(ⅲ)当事者間に「約因」(consideration)が必要とされ、これがなければ契約に拘束力が認められないことになります。この「約因」は、対価関係(すなわち、ギブアンドテイクの関係)と考えられるところ、当事者間に約因が認められてはじめて、単なる合意(Agreement)が契約(Contract)となって、法的拘束力が認められるのです。このことは、当該契約の拘束力に関わる重要な事項ですので、通常、契約書の冒頭で約因が存在することが明示されることになります。